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と、呟き、房一に向つてしきりとうなづいていた。
「さうだ」
そこに、房一は、酒のために紅くなつてはいるが、そして、まだ額のあたりに筋張つた色が立つてはいるが、稍やゝ前こゞみになつた半白の頭を見た。それは河原町の人などには見られぬ線の粗あらさとどぎつさこそあつたが、想像したよりもはるかに老人だつた。
「いや」
すると、徳次はびつくりしたやうな眼で房一を見やつた。
「あのう、笹井へ往診がございますが」
来客の間にほつと寛くつろいだ空気が流れ、直造が袴をさばいて立ち上らうとした時だつた。
「ねえ!」
「いゝ恰好で!」
「先生!」
どこかで、「営林署だ」といふ声が聞えた。そして、黒い人影は左手へ向けてぞろぞろと走つて行つた。何か叫び声のやうなものがその方で起つていた。
とてもそんなことは!といふ風に房一は答へた。