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    今度は正文の方で答へなかつた。そして急に苦がい顔になつて、ぢろりと薬戸棚を見まはしただけで母屋おもやの方へ帰つて行つた。

    「それでは、又あらためて伺ひます」

    だが、このはてしのない遠慮深さは気持の悪いものではなかつた。

    「ね、君」

    と、盛子は大げさに滑稽な顔をしてみせた。

    その「含有量」といふ言葉は富田が昨日聞き覚えたばかりのものだつた。

    房一はその時診察用の椅子に腰を下して、ゆつくりと煙草をふかしながら、何気ない風で男の様子に目をつけていた。彼は男の要求する意味を悟つた。たゞ治療をしろ、他のことは見て見ぬ振りをしてくれ、まして他言は無用だ、といふ意味だつた。

    と、房一は急いで頼んだ。加藤巡査は一瞬、不安な面持をした。が、房一の態度が決然としていたのと、急策としてはそれより他にないことも明かだつたから、直ちに承諾を与へた。

    「そうしてそのお松と言う女は?」

    「あゝ、さうか。ふうん」

    町の一部では房一が「席を蹴立てて帰つた」といふ評判だつた。それが何か乱暴でも働いた、といふやうに伝つて、噂を聞いた老父の道平は河場からわざわざ様子を聞きに来た。

    富田はすぐ又自分の方に話をひきとつた。

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