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「誰かと思つたよ」
「ふうん、潰れるだらうな」
「この人はちっと眠むがってるでな……」
今日見るその顔は、色こそ黒かつたが、地蔵眉の、眼もそれに釣り合つて細い糸を引いたやうにやさしかつた。だが、その声には何かきつぱりした、率直さが感じられた。
すると、徳次はびつくりしたやうな眼で房一を見やつた。
だが、今日は徳次の方でめづらしく今泉の近づいて来るのを待つていた。といふのは、今泉の方でも遠くから徳次を見つけるや否や、声にこそ出さなかつたが、何か話すことがありさうな様子で、急ぎ足になつたからである。
と、呟き、房一に向つてしきりとうなづいていた。
「うん。青島陥落の、ほら、旅団長閣下だよ」
と、その小柄な身体から出るとはとても思へない、幅のある、濁だみ声で云つた。
「ハッパもいゝが、近頃は土方がいたづらをするとか云うて、女の子が下の方を恐はがつて通らんていふぢやないかね」
――房一がさういふことを耳にしたのはごく最近である。しかし、いづれにしても房一には直接関係のないことだつた。
読経どきやうはまだ始まらなかつた。